「迷路の三人」（横溝正史） | ラバン船長のブックセイリング | 旧角川文庫から漏れた由利三津木の貴重な一篇

由利･三津木の事件簿15

旧角川文庫から漏れた由利三津木の貴重な一篇

「迷路の三人」（横溝正史）
（「由利･三津木探偵小説集成2」）
　柏書房

「迷路の三人」（横溝正史）
（「横溝正史探偵小説コレクション①」）
　出版芸術社

肝試しとして
夜更けに幽霊屋敷を訪れた
美雁･梨枝の姉妹と鳥羽の三人。
その幽霊屋敷は
避暑地に建つ一軒の廃屋で、
内部には迷路が施されていた。
途中ではぐれてしまった
美雁の叫び声が暗闇を裂く。
二人が駆けつけると美雁は…。

横溝正史のミステリ、
由利･三津木シリーズの
作品のほとんどは
旧角川文庫に収録されていたのですが、
そこから漏れていたのがこの一篇です。
内部が迷路となっている幽霊屋敷。
いかにも横溝らしい殺人の舞台です。

【事件簿15 ｢迷路の三人｣】
〔事件捜査〕
由利麟太郎…私立探偵。
〔事件関係者〕
美雁
…幽霊屋敷探検を提案。殺害される。
梨枝
…美雁の姉。
珠江
…美雁の実母。梨枝の継母。未亡人。
　夫の財産を蕩尽する。
　実子･美雁を愛する一方、
　継子･梨枝に冷淡。
鳥羽慎介
…避暑地で姉妹が知り合った
　財産家の息子。珠江は美雁を
　慎介に嫁がせたいと思っている。
進藤俊策
…避暑地で珠江一家が知り合った男性。
　冒険家。
黒沼辰蔵
…脱獄囚。幽霊屋敷に隠れていた。
　美雁と遭遇。

2 夜光虫

created by Rinker

¥2,970 (2024/05/17 09:28:22時点 Amazon調べ-詳細)

今日のオススメ！

本作品の味わいどころ①
これは一体何？光る藁人形の秘密
殺人現場近くの沼に捨てられてい
た藁人形には、夜光性の燐が塗られ、
その胸には短刀が突き刺さっていた！
もちろんたまたま
存在していたわけではなく、そこに
重要な意味が隠されているのですが、
そうした仕掛けが
味わいどころの一つです。
わざとらしさが拭えませんが、
だからこそその意味を考えようと、
読み手は頭を働かせようとするのです。

本作品の味わいどころ②
横溝特有のおどろおどろしさの発現
その藁人形に加え、
所有者が首を吊って自殺した幽霊屋敷、
敷地内に仕掛けられた迷路、
母親の愛情の度合いの異なる姉妹、
戦後の横溝特有のおどろおどろしさが、
昭和12年に書かれた本作品では
すでに発現しています。

本作品の味わいどころ③
由利麟太郎の超人的推理
例によって由利麟太郎の超人的推理で
事件は解決します。
状況を精査した記述は
ないにもかかわらず、
犯人の使用した凶器を断定する。
証拠がないにもかかわらず、
一介の探偵が
警察組織を動かして犯人を追い詰める。
謎解きやリアルさ以上に
エンターテインメントを追求する
戦前の横溝らしさが全開です。